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新美術世界 / MAHO KUBOTA

春はライオンのようにやってきて子羊のように去っていく(正しくは「3月は、」)、という言葉があるけれど今年の春はライオンのようにやってきてライオンのままに去っていく、という感じではないだろうか。

明後日にはもう5月というのに春風が吹き荒れている。
キッチンの向こうに窓があり、その向こうには神宮球場が見える。神宮球場のその背後には、実際には結構距離があるのだがホテルニューオータニ旧館の、今ではなんとなく間延びした感がある高層建築が見えている。
神宮球場のスコアボードの上に掲げられた旗が風をはらんで千切れんばかりに揺れていて、遠くから見てもはっきりとしたその旗が日本国旗だということはしばし意識の外だったが、旗の図案の記号性を意識からはずしたままぼんやりと眺めているとふとその簡潔な美しさに心をとらわれていることに気づいた。

カメラにおさめておこうと思い、窓に近づいてみてそれが意味のないことだと気づく。不思議なことだが、目が捉えるこういった光景はカメラで捉えるこができない。

目は遠くの旗を唯一の対象として情報処理(情報処理しているのは脳の方だが)してしまう。
手前のキッチンの様子は情報の中で不要なものとして整理され、遠近感ですら脳の都合のよいように処理され、意識の唯一の対象である旗のみにフォーカスされ、脳の中でしっかりと絵を描き、かろうじて背景であるニューオータニの建物とその背後の春の空が「面色」を作っている。こういった意識の流れの中にある光景を捉えるとしたら映像表現という方法もあるだろうけれど、おそらく絵画という手法が一番状況を伝えるに適した方法なのだろうと思う。前回書いた広重が今の時代にいたとしたらきっとこの光景ですら簡単に描くことができたかもしれない。(実際彼は遠近法と知覚操作についての天才だと思う)

2020年のオリンピックも4年後に近づき、ここ神宮外苑の風景は変わりつつある。今この窓から見える神宮球場も数年のうちはその手前に計画されている22階建の高層マンションのために見ることはできなくなるだろう。この光景を絵画に残しておく技術をもたない私は、せめて今のうちに千切れんばかりのこの旗の姿を折につけて見ておこうと思う。

Profile

久保田真帆(クボタ・マホ)

MAHO KUBOTA GALLERY ディレクター。ジュリアン・オピー、安部典子、長島有里枝、ブライアン・アルフレッドほか、国内外のアーティストをリプリゼント。ビジュアルアートの範囲にとどまらず広義のカルチャーシーンとつながるギャラリーを目指しています。アーティストマネジメントのほか、パブリックアートプロジェクトや展覧会企画、コーポレート・コレクションのコンサルティングなど幅広くコンテンポラリーアートに関わる毎日。http://www.mahokubota.com

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