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“ブランドのリブランディング” と聞くと、奇を衒ったコンテンツや新しい価値との融合など、何かをプラス(付加)し、価値を増幅させる方策がよく聞かれます。老舗洋食器メーカーNIKKO(以下、ニッコー)の新プロジェクトとして2021年11月富ヶ谷に誕生したジェネラルストア「LOST AND FOUND」では、ニッコーが誇る純白の洋食器シリーズから厳選された、驚くほどシンプルかつミニマムな食器コレクション「REMASTERED」が、堂々と並ぶ風景が印象的です。 今回のリブランディングに込められた想いについて、同ストアのプロジェクトリーダーであるニッコー株式会社の三谷直輝さん、ブランディングプロデュースを担当したTransit Branding Studio(以下、Transit) 甲斐政博にインタビューをしてきました。前半では、「REMASTERED」の誕生秘話と「LOST AND FOUND」の着想に至るバックストーリーを伺います。

店内の煉瓦製トンネルの向こうに並ぶ、純白の食器の陳列に目を奪われます。1908年に創業し、ホテルやレストランで多く採用されている老舗洋食器メーカーが、なぜこのタイミングでリブランディングのプロジェクトを始動させることになったのでしょうか?

  • 三谷

    114年という長いニッコーの歴史の中で、陶磁器事業は初期から続いているのですが、実はかなり浮き沈みが激しくここ数年は伸び悩んでいたんです。これまで色々なことを試してきたのですが、食器を手に取れるショールーム自体への集客に課題を感じ、まずは多くのお客様が足を運んでもらえるような場にしたいと考えていました。

    今回Transitさんにお声がけをしたのは、やはり飲食業界のことを深く知っていて、かつブランディングができるというのがポイントでした。過去に、デザイン会社にブランディングをお願いしてブランドの見せ方をアップデートしてきた経緯はあったのですが、ショールーム自体を見直すとなったときに、昔からかっこいい空間やお店を数多く作っている印象があったTransitさんは、我々が組むべきパートナーとしてまず思い浮かびました。

  • 甲斐

    三谷さんからお話をいただいて、最初はショールームにカフェを併設できないかや、業界に関わるコミュニティーを作れないかなどの話もあったんですが、ショールームへの集客の前段として、まずはブランド価値を高めるためのヴィジョンを描くことが必要だと考えました。そのために、ブランドの実情を知るべく工場見学に行かせていただいたんです。

    工場で一番印象的だったのは、さまざまなセクションの方が本当に手間ひまかけて一枚の食器を作っている光景でした。デザイナーさんともお話する機会があったのですが、食器一枚一枚の持ちやすさや軽さ、重ねやすさ、そして合わせる料理までをも考え抜かれていて、ミリ単位以下の絶妙な差までデザインされていることに感動して。それがニッコーさんの開発力なんですよね。シンプルに、それを伝えるための ”見せ方” をどう作り込むかが重要だと考えました。

  • 三谷

    そこには、ユーザーファーストでプロダクト開発をしてきた経緯があるんです。例えば15センチと17センチのお皿があったとしても、シェフが16センチのお皿が欲しいと言ったら作るような。普通に考えたら有り得ないのですが、そういったことを真面目にやってきた結果がニッコーの強みになっているのかなと思います。それが逆に負担になることもありましたが、弱みでもあるし強みでもあるというか。

  • 甲斐

    そういったところが、大型レストランなどから愛されてきたポイントのひとつだと思うんです。丈夫で収納しやすく、何に合わせてもきれいに映える、ある意味100点の食器なんですよ。逆に言うと、完璧過ぎるが故に凡庸さを感じてしまう面があったところに、もう一度光を当てるきっかけを作りたかった。それが、今回の 「REMASTERED」(※) コレクションというアイディアのきっかけになったと思います。

  • (※「REMASTERED」とは、ニッコーが誇る既存の純白の洋食器「NIKKO FINE BONE CHINA(以下、BONE CHINA)」ラインの中から、現代の暮らしをより豊かに導いてくれるものを選び抜き、再編集したコレクション。ショールームに併設されたジェネラルストア内で販売されている。)

場所作りの前に、プロダクト視点でブランドの再構築を図ることになったのですね。「REMASTERED」コレクションに込められた思いについてお聞きしたいのですが。

  • 甲斐

    REMASTEREDコレクションは、膨大にあるBONE CHINAラインの中から、変わらずに愛され続けるミニマムなデザインを厳選したシリーズになります。ミニマムなデザインの中には、ニッコーさんが積み重ねてきた知恵と技術が細部まで施されていて、そこをあえてフォーカスしたかった。それでいて、アーカイブから選び抜いた食器をそのまま売るのではなく、時代に合わせてチューニングしているのがポイントです。なので、もとからあるシリーズではあるのですが、微妙なリムやお皿のサイズをミリ単位で調整して、再編集したコレクションの形として提案しています。

  • 三谷

    普通、洋食器メーカーのリブランディングとなると、かっこいい絵柄を付けるとか、奇抜なシェイプや食器のフォルムにするなど、ビジュアルのデザイン性を追求してく方法を取るケースは多いですし、今まで我々もそういうやり方をしてきました。今回、あえてそれをしなかったのが個人的にはすごく良かったと思います。
    日本にある洋食器メーカーとして、”ジャパン” を強く押し出したり、逆に”洋” の部分を押し出すことで新しい “和” の見え方を提案するなど、何が正解なのか難しいなと昔から思っていたんです。今回逆張りのような形で、ニッコーらしい “質実剛健”のようなラインナップにしていただいたのが良かったのかなと。不安もありましたけど。笑

  • 甲斐

    ニッコーさんが不安だったのはすごい分かるんです。笑 本当にどシンプルなものを選んでいったので。
    今回、アートディレクターとして平林奈緒美さんを起用させていただいたんですが、平林さんにはデザインだけではなく、プロダクトに関してもご一緒したい相談をして。工場にも同行いただきアーカイブを一緒に漁る中で、今回のREMASTEREDコレクションのようなミニマムな形の食器を掘り起こすことになるんですが、平林さんをキャスティングする時点でこの方向性になることは意図していた部分ではありますね。

  • 三谷

    食器のセレクトが終わったときに、ニッコーのベテランのデザイナーがボソッと、「平林さんは分かってらっしゃる」みたいなことを言ったんです。笑 食器のプロの目線から見てもそのセレクトに一目を置くことを知って、そこで背中を押された部分もありましたね。

  • 甲斐

    確かにその言葉はうれしかったですね。ずっとこだわりを持って食器を作ってこられた職人の方から「いいところを選んでくれてますね」という言葉が出たときは、シンプルに嬉しかったです。

あえてラインナップを削ぎ落とすことで、モノづくりへのこだわりを改めて魅せているのですね。そのREMASTEREDコレクションの確立と共に、今回どのようにショールームプロジェクトを進めていったのでしょうか?

  • 甲斐

    ヴィジョン設計としてまず考えたのは、ホテルやレストラン向けに量産している老舗のニッコーさんが、業界の中でどういう印象を持たれているかを深堀りする必要があるなと。最近よく雑誌に登場するようなシェフや街場の人気料理店のシェフなど、我々が繋がりのあるシェフの方々に話を聞いていき、「食器ってどうやって買ってますか?」「どういう点を気にしますか?」など、本当にあらゆることをヒアリングしました。最後に種明かしとしてニッコーさんの名前を出してどういう印象なのかも聞いていき、丁寧に整理していきましたね。

  • 三谷

    もともとニッコーの食器は、老舗ホテルや三つ星五つ星ホテルのシェフにはお使いいただけていました。一方で、修行時代に師匠が好んで使っていたような、少し古臭いイメージもあるんじゃないかと。時代の流れを見ても、大量に買ってくれるお店だけでなく、Transitさんが繋がっているようなこだわりのあるお店にも好んで買ってもらいたいと考えていました。

実際に今後ニッコーさんがターゲットにしていきたい飲食業界の方々の、リアルな声を集めていったんですね。それらの声はどのような方針に結びついていったんでしょうか?

  • 甲斐

    ヒアリングする中で分かったのは、シェフの方々の情報源として、ショールームに行ったりカタログを見るよりは、街へ出ていいものを見つけて買ったり、そこのメーカーに問い合わせをするという方が大半でした。これってBtoCと変わらないんですよね。シェフの方も一般の人も、セレクトショップやインスタグラム、インターネットで出会ったブランドや作家さんの情報をもとに、気に入った食器を選んで買う。それが今回、ニッコーさんと同じような思想を持つ、ニッコーさん以外のメーカーの日用品も一緒に扱う、ジェネラルストア併設という形を提案したきっかけになりました。

  • 三谷

    その話を聞いたとき、シンプルに納得しましたね。自分がもし感度の高いシェフだったら、メーカーのショールームにはあまり行かないなと。なので、ジェネラルストアという場所を作りましょうというご提案は、結構すっと入ってきたと思います。実は今回、そこまで大きなプロジェクトにはせずもう少しライトな形で場所を作りたかった思いも正直あったんですが、Transitさんからその提案を受けて、やはりリブランディングのための近道はないよなと改めて思いました。笑

「新しいショールームの形」について、後編へつづく

LOST AND FOUND

LOST AND FOUND = 忘れ物保管所

LOST AND FOUNDは、「忘れられてしまった大切なものが見つかる場所」

それは、確かな技術に基づいて長い間作り続けられてきたのに、
世の中に溢れた多くのものに紛れてしまったり、今も通用するのに時代の流れに埋もれてしまった、良いものが見つかる場所です。

扱うのは、長く愛用できる日用品の数々。

私たちは必ず、実用性と美しさを兼ね備えたものを選んでいます。

使う時に心地よく感じる素材、人と自然環境を大事に考えている生産背景、そして価格にいたるまで、本当に納得できるものを提案していきます。

〒151-0063 東京都渋谷区富ヶ谷1-15-12 1階

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