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前回に引き続き、上勝町ゼロ・ウェイストセンターWHYの立ち上げに携わった田中達也さんと運営するBIG EYE COMPANY Chief Environmental Officerの大塚桃奈さん、ブランディングプロデュースを担当したTransit Branding Studio(以下、Transit) 岡田光3名にインタビュー。後編では、開業して1年、「WHY」を通して変わる町の姿と未来に向けて目指していくべき姿について話をお伺いしました。

  • WHYとは…徳島県徳島市からクルマで1時間弱の上勝町は、2003年に国内で初めてごみゼロを目標に掲げる「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った町。「WHY」は2020年5月30日(ごみゼロ)の日にオープンした廃棄物分別回収施設、中古品回収施設、コミュニティ施設、オフィス施設、体験型宿泊施設からなる複合施設。

大塚さんはWHYのCEOに着任する前は大学生だったとお伺いしています。どのようなきっかけで大塚さんを起用したのでしょうか。

  • 田中

    こういう過疎地で人材を確保することは、とても大変なんです。そんな中でいろいろな人と関わりがあった中で、特に印象が深かったのが彼女でした。

  • 大塚

    WHYを建築設計された中村拓志さんが知人だったこともあり、大学1年生の時にゼロ・ウェイストの取り組みを知りました。同年の12月頃にRISE & WINのチームが参加する上勝のイベントが横浜のワーキングスペースであり、上勝に興味があったこと、実際に住んでいる人や働いている人と話すチャンスだと思い参加しました。このトークイベントをきっかけに、冬休みを利用して1人で参加しました。

  • 田中

    とても朗らかで面白い子だと感じたので、そのときの印象が強く残っています。それからは夏に遊びに来てくれたりもしましたね。

  • 大塚

    上勝町に訪れて社員の皆さんと一緒に餅つきをしたり、だいぶ仲良くなりました(笑)。そんな時に、上勝町もインバウンドをパワーアップしていきたいという話を伺いし、一週間ほどインターンシップに参加し学生の視点から町で取り組めることを一緒に考えました。大学3年生の夏からはスウェーデンに交換留学へいったのですがヨーロッパでサーキュラーエコノミーが注目されていたこともあり、ヨーロッパの視察旅行を担当させていただくことになりました。

    アムステルダム、ベルリン、ブリュッセルの3都市に決めて、それぞれの起業家や関係するワーキングスペース、コミュニティーをリサーチして、一緒に訪問していきました。その中でサーキュラーエコノミーという在り方を実際に挑戦している若者たちとも触れ合えたことは私自身にとって大きなインスピレーションとなりました。それと同時に自然豊かなスウェーデンで暮らす中で必ずしも都市で働く必要はないのではないかと、自分の暮らしや仕事を新しく自分で作れる環境を求めた進路を考えるきっかけになりました。

  • 田中

    CEOは上勝町が取り組むゼロ・ウェイストを発信する人なので、当初はその活動に携わっている人や、これまでこの町で一生懸命やってきた人がいいのかなと考えていました。ただ、次の新しいものを創ろうとする中で、内々だけでは進まないこともあり、この町に本当に必要なのは新しい風ではないのかという思いが芽生えました。もちろん、これまで一生懸命取り組んできた方々の土台があるからこそではあるのだけど、こちらの意図に合わせて動くような人ではなく、新しいものを一緒にやっていける人を考えた時に、大塚さんを思い出したんです。それから、ずっとコンタクトを取り続けて、最終的には口説き落とすためにヨーロッパまで行きました。

町をよりよくしたいという強い思いが、大塚さんとの偶然の出会いを生んだのかもしれませんね。開業して1年が経ちましたが、「WHY」を通じて上勝町の方々の生活やコミュニケーションに変化はありましたか?

  • 田中

    ごみ処理施設なので以前はやっぱり臭いが気になるという声はありましたが、その点はだいぶ良くなりましたね。ただ、分別するオペレーションの流れが変わり、そこを町民と一緒につくっていく必要がありました。籠の位置や順番など変わってしまったので、当初はスタッフと町民の方が、「これはどこにやるの」みたいなやりとりが混雑時にありました。

    建物については、デザインが奇抜なこともあり最初の頃はだいぶ戸惑われたようです(笑)。ただ、30代のスタッフが同世代の町民に話を聞いてみると、デザインや建築などはわからないけど自分の町に誇りになるようなものができるのは嬉しいという声もありました。

  • 大塚

    私はビフォアがわからないので何とも言えませんが、WHYができたことで外から人がたくさん来ている感覚は町民同様にあって、町に新しい風が入ってきているのかなと思います。実際にHOTEL WHYには、同世代の宿泊者や視察者と出会うことも多いです。

  • 岡田

    実際に来ている人とコミュニケーションを取ったり、仲良くなっていく中で特徴的な意見とかってある?

  • 大塚

    交流ホールをもっと有効活用していきたいという声は内外からあり、例えばいつもくるくるショップに立ち寄ってくださる住民からは喫茶スペースがあったら嬉しいという意見もいただきました。他にも町外の方からは、ゼロ・ウェイストの考え方に共感するので「くるくるショップ」に家にある中古品を持ち込みたいという多方面からいただいています。ものが増えてしまうことを懸念して現在の受け入れは町民に限定していますが、今後WHYが中心となって町外方が気軽にリユースやアップサイクル、さらにリペアに取り組める方法を考えることができたら嬉しいです。

  • 田中

    一方で課題もまだまだ残っているね。宿泊者と町民のゴミステーション利用同線のバッティングだったり、宿泊者以外の来町者がゴミステーション内へ利用時間内に入ってしまったり、そこはどうにかならないのかという声は少なからずあります。

    ただ、自分たちのやってきたゼロ・ウェイストの取り組みが評価されて人が集まっているのは分かっているので「何でこんな所に来るの?」とは思っていないし、来てほしくないと思っている訳ではないんですよね。もう少しうまくその辺の住み分けができると、もっともっと皆さん快適になるのかなと。そこは施設運営側が改善を図る必要があると思っています。

  • 岡田

    変化があったからよかった。変化が起きていなかったら失敗だから。

  • 大塚

    そうですね。WHYは上勝町の住民にとっては公共施設であると同時に、町外からやってくる来訪者に対しては玄関口となる施設です。新型コロナウイルスの感染拡大が広がる中でひととひととの交流を育むことがより困難を増していますが、その2つの意識を持ちながら地域に寄り添い循環を生む場作りを目指して生きたいです。

    嬉しい話としては最近、上勝の中にお母さんたちの団体ができて、ここを拠点の一つとしてこどもたちが遊ぶ、ワークショップや居場所づくりができないかという話があり、どのように関われるか探っていきたいと思っています。

スタッフだけではなく町民も一緒に施設を作っているのは、町民からもWHYが受け入れられている証拠なのかもしれませんね。WHYをこれからどうしていきたいですか?

  • 大塚

    去年1年間はゼロ・ウェイストセンターのオープンを知ってもらうことに力を注いできたと思っていて、これからはどうしたら根を張れるかに挑戦していきたいです。このセンターの特徴、周辺の環境資源を見つめながら、どうやったら続けていけるのかを考えていきたいです。

    ラボラトリーなど研究施設はあるのですが住む場所がないので、ホテルで短期滞在できたとしても長期の活動拠点となる場所が無いのが現状です。なので、WHYを中心に新しく住める場所を広げていけば、移住してくれる方も増えるんじゃないかなと思っています。

  • 田中

    大塚さんから話があった通り、人は集まってきているけど、住む所がないんですよね。せっかく上勝まで来て暮らして、夢持ってこれから取り組みしようかっていうときに、薄暗くて住みづらい家だと「何しているんだろう」と感じると思うんです。別に豪華じゃなくてもいいけど、もう少し町の豊かさを感じられるような暮らしができる、そういう住宅が必要かなと思っていています。そういう人たちが集まれる、そんなことができるんだって思えるような暮らしの提案っていうのは、やっぱり必要かなと。

  • 大塚

    人口問題という課題もありますが、せっかく宿泊施設があって、このセンターがあるので、WHYの仕組みとして、ここに人が訪れることによって自分の町や社会が良くなるような仕組みが作れたらと考えています。例えば、人が来ることによって上勝の森がどんどん良くなり地域として残っていく。人が居なくなっても残っていく町になるみたいな、そういった取り組みもできたらいいなと思っています。レスポンシブルカンパニーっていう視点からも、BIG EYEがここで、ここにWHYがある意義を胸を張って言えるようになりたいです。

  • 岡田

    今回、新たにチェックインのときに宿泊費から支援したい取り組みに寄付するシステムが追加されていて、そういう新しいサービスと思想をミックスしたような取り組みをしていて、非常に素晴らしいなと感じました。こういう企画がどんどん増えていくといいと思います。

  • 大塚

    トライアンドエラーだと思うので、形にできるものを作っていきたいです。現在ドネーションは上勝のゼロ・ウェイストの取り組みに貢献できる基金か、上勝の棚田を保全する取り組みの2つから選べるようになっています。自分で簡単にできるアクションを見える化したほうがもっと関わりやすいと思うで、まだ小さいステップですが引き続き考えていきたいと思います。

    いろいろな方の思いが詰まった、この上勝町ゼロ・ウェイストセンター「WHY」のプロジェクトですが、私もその思いを汲み取って、このセンターは町と町の外をつなぐ一つのハブとなる場所なので、そこに働く1人としていろんな人を巻き込みながら、ゼロ・ウェイストであったり、町の未来であったり、自分たちの暮らしを楽しく考えられたらいいなと思います。

  • 岡田

    掃き溜めに鶴ではないけど(笑)。世界一美しいごみ捨て場になりたいですね。

  • 大塚

    ごみ捨て場に人が集まることって、なかなかないと思います。そこを目指して頑張っていきたいと思います!

WHY

徳島県上勝町のゼロ・ウェイストの取り組みを象徴するプラットフォーム。
資源ごみ分別場の〈ゴミステーション〉、環境とビジネスを学ぶ〈ラーニングセンター〉、ゼロ・ウェイストアクションホテル〈HOTEL WHY〉、不用品交換スペース〈くるくるショップ〉、企業や教育機関に貸し出される〈コーポラティブラボラトリー〉などから成る環境型複合施設。

徳島県勝浦郡上勝町大字福原字下日浦7番地2

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